「秘密」、「白夜行」ときて、次は「手紙」も映画化される、万年候補がようやく受賞にあいなった直木賞作家、東野圭吾の旧作である。
受賞作「容疑者Xの献身」も上記作品とならびたいへん良質な作品だったが、彼の作品を時系列できちんとよんでみると(もっか続行中!)単なるトリック趣味の新本格派の作家たち(それはそれで評価してますから綾辻先生他京大ミステリ研のかたがた)とそもそもがことなり、人間を描こうという壮大な志を感じる。
凡百にいわれる本格が人間が描けてないというありきたりな批判をしたいわけじゃないからね、念のため。新本格も高く買ってるんだからね(しつこいか?)。
それは裏返せば、ミステリを文学のために利用しているとか、ミステリの知的たのしみを低く置き、人間に奉仕させているとか、一理ありそうでその実まったく見当ちがいな批判に通じる。
むしろ東野はミステリの知的遊戯性を損なわず、犯罪の中に、犯罪に巻き込まれてしまう「人間」に普通の状況ではなかなかにたどり着けない人間の深淵感じ、それを切り取ってくるところに先進性があると思われる。
って結構絶賛ですね。
で、この「鳥人計画」ですが、スキージャンプ競技を舞台にしているが、スポーツのトップの世界を描き、そこでのアスリートやスタッフの苦悩や異常性を切り取れている。また、近年の作品ほどは動機の超越性(それを理解することが人間の理解がまた一歩深まるような超俗性)が鋭く描かれているわけではないが、確かにその方向性を感じる優れた可能性がある。
作品は犯人探し(フーダニイット)ではなく、動機と、2回にわたる犯人への警告、告発をしたのはだれか? というおうして犯人がわかったか? を含む告発者探しの仕組みを持っている。そして殺人の動機と、どんでん返し、そこでもう一度見直される動機とかなり複雑な構造をもっている。
今絶版になっているようでもったいないはなしであることよ。
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- 2006/09/03(日) 00:01:00|
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